札幌高等裁判所 昭和48年(ネ)154号 判決 1974年8月28日
控訴人 日本国有鉄道
右代表者総裁 藤井松太郎
右訴訟代理人弁護士 鵜沢勝義
右同 鵜沢秀行
右訴訟代理人控訴人職員 伊藤幸二郎
<ほか四名>
被控訴人 和田紀夫
<ほか三名>
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 中島達敬
右同 彦坂敏尚
主文
原判決中、被控訴人和田紀夫、同伊瀬正夫、及び同新沼喜内に関する部分全部、並びに被控訴人大場栄に関する部分のうち控訴人敗訴部分を、いずれも取り消す。
被控訴人らの各請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
≪省略≫
理由
第一控訴人の本案前の主張(原判決四枚目表一二行目から同裏八行目まで)に対する判断
右主張に対する当裁判所の判断は、原判決理由欄中、同一〇枚目表二行目から同一二枚目表六行目までの説示と同一(ただし、原判決一〇枚目裏六行目の冒頭から同一二枚目表三行目の末尾までを、「二右認定等の事実によれば、被告は、本件減給処分が有効なることを主張し、これを前提にして、原告らの賃金請求権、退職手当請求権等に関し不利益な取り扱いを行なわんとしているところ、原告らは、本件減給処分の無効を主張して右取り扱いに不服であるから、本件減給処分が存在する結果、これを基礎にして、原告らに被告との間に法律上の地位の不安定が存在することは明らかである。ところで、原告らの本訴請求のうち、労働契約上の地位の確認を求める部分は、その趣旨及びこれに関する理由より考察すると、要するに、本件減給処分が無効であることを理由に、原告らが、現在、被告に対し、本件減給処分を受けていない状態における労働契約上の権利を有する地位(権利、又は法律関係)にあることの確認を求めているものであると解されるところ、右請求を認容した確認判決は、本件減給処分が存在することにより惹起される原告らと被告間の現在及び将来における労働契約上の紛争を抜本的に解決することに資するものであるというべきであるから、原告らがかかる確定判決を得ることは、原告らの右法律上の地位の不安定を除去するのに有効、かつ適切な措置であるといわなければならない。そうすると、被告主張の如く、原告らの右確認請求を」と改める。)であるから、これを引用する。
〔一 原告らがいずれも被告の職員であること及び被告が原告らに対して昭和四四年五月二九日に原告らが主張するとおりの減給処分をしたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、被告と国労間において昭和四五年五月七日に締結された「昭和四五年四月期の昇給に関する協定」は職員の昇給所用期間内において、職員が減給六ヶ月以下の処分を受けた場合においては、その者の昇給につき一号俸を減ずる旨定めていること、従って原告らは昭和四五年四月の昇給期において、その昇給につき一号俸を減じられるのであって、原告らは特段の事情のない限り、その主張の退職時期にいたるまでの間継続して、すくなくともその昇給を減じられた分については支払を受け得られない不利益を受けるほか賃金総額(基本給と扶養手当の合算額)に一定割合を乗じて算出支給される夏期手当その他の諸手当、俸給月額と在勤年数によって算出支給される退職一時金、退職後の年金額についても前記昇給一号俸減に見合う不利益を受けることになることが認められ、他に右認定を妨げる証拠はない。)
二 右認定等の事実によれば、被告は、本件減給処分が有効なることを主張し、これを前提にして、原告らの賃金請求権、退職手当請求権等に関し不利益な取り扱いを行なわんとしているところ、原告らは、本件減給処分の無効を主張して右取り扱いに不服であるから、本件減給処分が存在する結果、これを基礎にして、原告らに被告との間に法律上の地位の不安定が存在することは明らかである。ところで、原告らの本訴請求のうち、労働契約上の地位の確認を求める部分は、その趣旨及びこれに関する理由より考察すると、要するに、本件減給処分が無効であることを理由に、原告らが、現在、被告に対し、本件減給処分を受けていない状態における労働契約上の権利を有する地位(権利、又は法律関係)にあることの確認を求めているものであると解されるところ、右請求を認容した確認判決は、本件減給処分が存在することにより惹起される原告らと被告間の現在及び将来における労働契約上の紛争を抜本的に解決することに資するものであるというべきであるから、原告らがかかる確認判決を得ることは、原告らの右法律上の地位の不安定を除去するのに有効、かつ適切な措置であるといわなければならない。そうすると、被告主張の如く、原告らの右確認請求をもって単なる過去の権利又は法律関係、事実関係の確認の訴として、その確認の利益を欠くものとすることは相当ではない。従って被告のこの点に関する主張は採用しがたい。〕
第二本案に対する判断
一、被控訴人らが控訴人の職員であること、及び控訴人が昭和四四年五月二九日被控訴人らに対し、日本国有鉄道法三一条の規定に該当する事由があるとして被控訴人らの俸給一ヶ月三〇分の一を減ずる旨の懲戒処分をしたことは当事者間に争いがない。
二、そこで、右減給処分が有効か否かについて以下検討する。
(一) まず、右減給処分の法的性格に関する控訴人の主張に対する当裁判所の判断は、原判決理由欄中、同一二枚目表八行目から同一三枚目表五行目までの説示と同一であるから、これを引用する。
〔被告は、本件減給処分はその本質において行政処分であるから、その処分自体に明白かつ重大な瑕疵がない限り当然無効となるものではないと主張する。なるほど、被告が国鉄法により公法上の法人とされ、被告の職員が広義の公務員に属するものであることは明らかであるが、そのことから当然に被告又は被告の総裁が被告の職員に対して優越的地位に立ち、被告の優越が被告の職員に対してする懲戒処分が必然的にいわゆる行政処分としての性格を帯びるにいたるものと解することはできない。被告の総裁がなす被告の職員に対する懲戒処分が行政処分であるかどうかは、あくまでも実定法の規定に従い被告の職員と被告間の身分関係を支配する法律関係を考究して決定しなければならないのであるが、被告の事業はその性質上私企業的なものであってその経営にあたって何らの権力的な要素を必要とするものではないし、国又はその行政機関が被告の事業に直接又は間接の監督権をもつことは被告主張のとおりであるが、それは被告の事業が国が出資するいわゆる公共事業であるからにすぎないのであって、そのことによって直ちに被告とその職員との身分関係が私法関係たる性格を失い公法関係に変容するとする被告の所論には賛成できないし、被告が挙示する関係諸法規を検討してみても、それが被告の主張を裏づけるものとすることはできない。なお、被告は、最高裁昭和二五年(オ)第三〇九号事件判決(昭和二九年九月一五日民集八巻九号一六〇六頁)を引用するけれども、右判例は本件と事案を異にするのであって適切ではない。
従って、被告のこの主張はその余の点について判断するまでもなく採用の限りではない。〕
(二) 次に、右減給処分がなされるに至った経過等は、原判決理由欄中、同一三枚目表七行目から同一八枚目裏八行目までの当事者間に争いがない事実及び原審認定の記載と同一(ただし、原判決一七枚目裏八行目の冒頭から同一二行目の「と、」までを「なく許可されていたこと、」と改め、同一七枚目裏末行目の冒頭から同一八枚目表四行目の「いること、」までを「された前記の場合が最初であること、」と改める。)であるから、これを引用する。
〔一 原告らの欠務とその具体的状況
1 国労が、被告が「本件減給処分の適法性について」1において主張するとおりの半日ストライキを実施したこと、原告和田は昭和四三年三月一日午前八時一〇分から同年三月二日午前八時二五分まで運輸掛として乗車券発売の業務に、原告伊瀬は同年三月一日午前八時一〇分から同年三月二日午前八時一五分まで駅務掛として手荷物及び小荷物の取扱い並びに旅客に対する放送案内の業務に、原告新沼は同年三月一日午前八時一〇分から同年三月二日午前八時一〇分まで駅務掛として転てつ器取扱いの業務に、原告大場は右と同時間内駅務掛として構内作業(連結担当)の業務に、それぞれ従事すべきところ、いずれも上司の許可を得ないで同月二日午前七時二四分鹿ノ谷駅発第七五二列車に乗車してその勤務場所である同駅を退去したこと、その結果、原告和田は一時間一〇分の間欠務し、この間同人がなすべき被告及び夕張鉄道線の合計六本の乗車券発売の業務に、原告伊瀬は五二分間欠務し、この間同人がなすべき被告及び夕張鉄道線の合計六本の列車の旅客に対する放送案内の業務に、原告新沼は四九分間欠務し、この間同人がなすべき入換作業における転てつ器の取扱い及び夕張鉄道線の第一五二貨物列車並びに二本の旅客列車における業務に、原告大場は一時間一九分の間欠務し、その間同人がなすべき入換作業における連結担当の業務に、それぞれ従事しなかったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫を総合すれば、原告らが右のように同駅を退去するにいたった動機は、原告らが前記国労の半日ストライキにおけるピケ要員として行動することにあったことを認めるに充分である。
2 そこで、原告らが右のとおり欠務するにいたった経過並びにその影響について見るに、
(一) 原告和田については、同原告は右のとおり鹿ノ谷駅を退去するに当り同日午前八時一〇分から出務すべき運輸掛の訴外横沢秀男とその勤務を交替すべく、その交替と外出の許可を求めたところ、同助役が「それは許可できない。」と答えたので、さらに同原告が取扱った収入金を同助役のもとに持参してその机上に置き、重ねて外出の許可を求めたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫も総合すれば、同原告は同日午前七時ころ訴外横沢との間においてその業務の引き継ぎを了し、前記のようにその取扱いにかかる収入金を稲辺助役のもとに持参したところ同助役も領収印を押して右収入金を受領し、訴外横沢はそのころから同日午前七時五五分ころまで同原告に代って執務し、この間列車五本の乗車券発売の業務に従事したが、同時刻ころ佐藤助役から勤務時間前であるから執務することをやめるよう指示されたため、その執務場所を離れたのであるが、同助役は訴外横沢に代って出札窓口にすわりながら乗車券の発売をしなかったため同駅発第七二五列車につき一名の無札入場者を出すにいたったこと、以上の事実が認められる。
(二) 原告伊瀬については、同原告が同年三月二日午前七時二〇分ころ、稲辺助役に対し「早めに外出させてほしい。」旨申し出たこと及び同原告が前記第七五二号列車に乗車しようとした際同助役が「これで帰ってはだめだ。」と制止したが、同原告はこれを無視して乗車し同駅を退去したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、同原告の後務者である訴外安藤達夫は同原告の勤務交替の申出を承諾し同日午前七時二〇分ころ同原告から事務の引き継ぎを受けて同日午前七時五五分ころ稲辺助役から所定の時間まで勤務についてはならない旨の指示を受けるまで同原告のなすべき手荷物及び小荷物の取扱い業務に従事し、また同原告のなすべき放送業務については稲辺助役と訴外安藤がどの程度分担したか必ずしも明らかではないが右午前七時五五分ころまで右両名が分担し、同時刻以後の手荷物等の取扱いについては同助役において受付窓口のカーテンをとざしたため、訴外安藤の正規の執務時間が開始するまでその業務は中断されたこと、以上の事実が認められる。
(三) 原告新沼については、同原告が同年三月二日午前七時二一分ころ、その勤務箇所である鹿ノ谷駅南転てつ詰所を離れたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、同原告は同日午前七時二〇分ころ、その後務者である訴外高橋敏の承諾を得て同訴外人とその勤務を交替し、そのことの許可を受けるため上司の今野助役に電話したが同助役が不在であったためその旨の伝言を訴外大島達一に依頼して前記のとおりその勤務箇所を離れたこと、そして同駅二番ホームにおもむいた際、後方から走ってきた稲辺助役に早く帰ってはだめだと言葉をかけられたが、同原告はそのまま前記第七五二列車に乗車したこと、なお、右稲辺助役の言葉が原告に聴取されたかどうかは必ずしも明らかではないこと、同原告とその勤務を交替した訴外高橋は、同日午前七時五五分ころ、有田助役から所定の勤務時間がくるまで執務してはならない旨の注意を受けてその勤務箇所を離れたが、それまでの間に同原告においてなすべき業務のすべては訴外高橋によって行なわれ、訴外高橋の正規の執務時間が開始するまでの間には同原告がなすべき業務はなかったこと、以上の事実が認められる。
(四) 原告大場については、同原告が同年三月二日午前六時五〇分ころ、同駅外勤運転室において助役今野喜一に対し、同日午前八時一〇分から勤務すべき訴外福川利春が第一四列車で来たから帰る旨申し出たこと並びに同原告は同日午前六時五一分ころ右運転室から立ち去ったこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、今野助役は右のように同原告から外出の申出を受けた際、そのような申出は認可できない旨答えたが、同原告はそのまま前記のように運転室から立ち去ったこと、その後、同原告と勤務の交替を承諾していた訴外福川の正規の執務時間が開始するまでの間における同原告のなすべき業務は、すべて右訴外人によって代替され、訴外高橋の右勤務自体が今野助役等によって制止されることもなく終了したこと、以上の事実が認められる。
そして、以上の(一)ないし(四)を通じ、他にこの認定を妨げる証拠はない。
二 鹿ノ谷駅における被告職員の早退等に関する従来の扱い
1 ≪証拠省略≫によれば、被告の就業規則(昭和二四年一〇月二四日職労第九六号運輸総局依命通達)五条には、被告の「職員は、みだりに欠勤、遅刻あるいは早退し、又は所属上長の許可を得ないで、職務上の居住地又は執務場所を離れ、若しくは執務時間を変更し、職務を交換してはならない。」旨及び同一二条一項には「職員が遅刻、早退および欠勤、欠務をする場合は、所属長に予めその理由を具して届出でその承認をうけなければならない。」旨の定めがなされていることが認められる。
2 ところで、≪証拠省略≫を総合すれば、鹿ノ谷駅に勤務する被告の職員が早退ないし勤務中に外出する場合においては、同駅のおかれた地理的条件もあって、従来から早退又は外出によってその業務に支障をきたさないよう早退又は外出する者において後務者その他の者にその間における勤務の交替を依頼したうえ、その上司に対して早退又は外出の許可を求めた場合には本件における原告らの前記早退、外出許可申出の場合及びその後約六ヶ月間における取扱いは別として、早退又は外出許可の申出に対してその上司から早退又は外出を必要とする具体的な理由を問われたこともなく許可されていたこと、右の許可申出が同駅に勤務する被告の職員の上司によって拒否されたのは原告らの早退、外出の許可申出に対してなされた前記の場合が最初であること、以上のとおり認められ(る。)≪証拠判断省略≫
そして、≪証拠省略≫を総合すれば、原告らの前記早退、外出が許可されなかったのは、鹿ノ谷駅においても昭和四三年二月二七日から同年三月一日までの間、国労によるいわゆる順法闘争が行なわれ、また、その翌日には前記のように追分駅において国労の半日ストライキが実施されることが被告にも判明していたため、被告においてもその対策の一環として鹿ノ谷駅にも被告の岩見沢運輸長室の菅原副運輸長らを派遣していたし、鹿ノ谷駅長においても同年三月一日午後六時ころ当務駅長である前記稲辺、今野両助役を駅長室に呼んで、明朝非番者が外出の承認を願い出るかも知れないが、勤務を厳正にして許可してはならない旨の特別の指示を与えたこと、そのため、稲辺、今野両助役も原告らの外出許可の申出に対し、前記認定のとおり、それまで全く見られなかった不許可の措置をとるにいたったこと、以上のとおり認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。〕
(三) 右認定等の事実によれば、控訴人の就業規則(五条、一二条)には、控訴人の職員が早退してその執務場所を離れ、欠務する場合においてはその所属長の承認をうけるべきである旨定められているところ、右(二)に訂正のうえ引用した原審認定のとおり、控訴人の職員である被控訴人らは、その所属上司の承認をうけないで早退し勤務中その執務場所を離れ、欠務したものであるから、被控訴人らは、右就業規則の定めに違反して、少なくとも同就業規則六六条六号(故なく職場を離れ又は職務につかないとき)所定の懲戒事由に該当する行為をなしたことが認められ、したがって、これは日本国有鉄道法三一条に規定する懲戒事由に該当するものといわなければならない。
(四) ところで、被控訴人らは、前記引用にかかる原判決事実摘示の原告らの主張「(労働慣行の存在)1ないし3」に記載の理由(原判決八枚目裏一三行目から同九枚目裏八行目まで)を掲げて、控訴人の被控訴人らに対する本件減給処分が無効である旨主張する。
成程、被控訴人らが当時就労していたその職務場所である鹿ノ谷駅においては、従来、職員が、その後務者等に勤務の交替を依頼したうえ、その所属上司に早退又は勤務中の外出の承認を申し出た場合、右上司から特に右早退又は外出を必要とする具体的理由を問われることなくこれが承認を得ていた事例があったことは前記(二)に訂正のうえ引用した原審認定のとおりである。しかし、更に右認定事実によれば、控訴人の就業規則には、控訴人の職員が早退又は勤務中に外出する場合は、その所属上司に対し必要理由を届出てこれが承認を受けるべきである旨明記されているところ、前記鹿ノ谷駅は、小人数の職員によって構成された控訴人の単なる末端営業現場にすぎないものと推認できるので、同駅の管理者である駅長又は助役に右就業規則を改廃、あるいはその効力を減退させる定めをなしうる権限があるものとは到底認めがたく、また、右鹿ノ谷駅の如き小規模の駅の上司としては、直接又は間接的にその所属職員の日常の動静を一応把握できるものと考えられるので、右鹿ノ谷駅の上司もその職員の日常の動静を把握し、同人から早退等の理由を告知させるまでもなくこれが許否の判断をなし得たため、殊更厳格に右理由を問わず早退等につき承認を与えていたものと推認できないでもないこと、更に、従来においても、同駅の職員が前記申出による早退等をなす場合は、あくまでもその所属上司の承認を求め、これを得て実行していたものであるから、過去に前記事例があったことをとらえて、この場合にかぎって、職員とその上司間に、右承認が不要、あるいはこれが形式的な措置であるとの認識のもとに早退等がなされていたと認めるのはいささか早計にすぎることなどを考え合すと、被控訴人ら主張の如く鹿ノ谷駅所属職員において、前記申出による早退等についてその上司が当然これが承認をなすべき義務を負う労働慣行上の権利を有すると断定することは困難である。そうすると、右労働慣行上の権利の存在を前提として本件減給処分が無効である旨の被控訴人らの主張は採用しがたい。
なお、被控訴人らが本件早退をなした動機は、被控訴人らが所属する労働組合(国労)が当日行なった半日ストライキのピケ要員として参加し行動するためであったことは、前記(二)に訂正のうえ引用した原審認定のとおりである。しかし、本件早退の動機が右のとおりであったことだけによって直ちに右早退による怠業を正当視しえないのみならず、被控訴人らは、右に説示のとおり早退等につきその主張の労働慣行上の権利を有しないうえに、所属労働組合(国労)の指令に基づく争議行為として本件早退による怠業に及んだことも認められないので、被控訴人らの本件早退による怠業自体は何ら正当な組合活動に該当せず、また前記(二)に訂正のうえ引用した原審認定事実によれば、むしろ、控訴人は、労働慣行上の権利否認の意図、あるいは、被控訴人らが右ストライキに参加したことに対する制裁として本件減給処分をなしたものでなく、被控訴人らが前記(三)に認定の就業規則所定の懲戒事由に該当する行為をなしたことを決定的理由として右処分に及んだことが優に推測できるので、右処分が、被控訴人ら主張の如き憲法二八条に違反し、又は不当労働行為(労働組合法七条一項一号)に該当することは到底認めがたい。
更に控訴人所属の職員が懲戒事由に該当する行為をなした場合において、控訴人(総裁)が右職員に対し如何なる種類、程度の懲戒処分をなしうるかは、控訴人(総裁)の自由裁量に属する事柄であると解するを相当とするところ、成程、従来職員から本件の如き早退の申出があった場合控訴人がこれを承認した事例が往々にあったことは前記(二)に訂正のうえ引用した原審認定のとおりであるが、右早退につき被控訴人らの職員が労働慣行上の権利を有しないことは右に説示のとおりであり、従来の早退の場合でも職員はあくまでも、所属上司の承認を得たのち早退に及んでいるものであり、本件の如く所属上司の右承認をとりつけずむしろその意に反して早退を強行した例はないこと、その他右原審認定の諸般の事情を考慮しても、控訴人が被控訴人らに対しなした本件減給処分が、その裁量を逸脱し、濫用にあたると認定することは困難である。
そうすると、右減給処分が無効である旨の被控訴人らの前記各主張はいずれも採用しがたい。
三、叙上の次第で、控訴人が被控訴人らに対しなした本件各減給処分は有効であるというべきであるから、これが無効を前提とする被控訴人らの控訴人に対する本訴各請求は、じ余の点につき判断するまでもなく、理由がなく棄却すべきである。
四、よって、右と結論を異にする、原判決中、被控訴人和田紀夫、同伊瀬正夫、及び同新沼喜内に関する部分全部、並びに被控訴人大場栄に関する部分のうち控訴人敗訴部分をいずれも失当として取り消して、被控訴人らの本訴各請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松村利智 裁判官 長西英三 山崎末記)